伊豆方面に限らず数多くの旅館やホテルに宿泊してきたが、初めて出会うような雰囲気の宿だった。一言でいうなら「静寂と香り」とでもいうのだろうか。何より不快なゲームセンターの音がしないのがいい。宿泊者も年配の方も多く、常連の方々が利用しているらしかった。
近辺は何の変哲もない中途半端な田舎の風景だが、宿のつくりがうまく、一度宿に入ってしまえば近くにせまる山の木々と川のせせらぎ、鳥のさえずりしか聞こえない。宿は決して新しくはないが、手入れが行き届いており不快感は全くない。きれいな温泉プールを中心として、その周りに配置されたこじんまりとしたサウナとアロマ、そして香りと音楽。まるでハワイに見られるような洒落た雰囲気で初めこそ宿の楽しみ方にとまどうが、すぐにとっぷりと溶け込んでしまう。それでいて、基本的に日本家屋の古風な造りは少々ミスマッチで実に良かった。宿の各所に配置されている椅子に腰掛けて心ゆくまで静寂を楽しむのもいい。ここは客が宿を選ぶというより、宿が客を選んでいるのかもしれない。
散歩がてらに歩いて行ける所に吉田松陰ゆかりの民家が保存されており、思ったより当時の風情が残されており驚く。また管理人の方の説明も親切でとても好感が持てる。