鬱蒼と茂る赤松の森を窓外に見下ろし、ここが「佳松園」と称される所以が解ったような気がしました。これまでも各地のホテルを訪れる機会に恵まれましたが、佳松園と言えば皇室御用、別格中の別格、畏れ多くて訪れることなど無い場と思っていました。界隈にはここに迫る価格帯の宿も珍しくは無くなりましたが、格式は何物にも代えがたい価値、言い換えるとわずかこの価格帯でこの環境に身を置けたことを、有難く思います。
奇をてらうような、目に見える派手さはどこにもありません。しかしながら、借景となる羽山や玉砂利の波をなぞる中庭の雪、組子細工などに安定的な日本独特の美しさ、清らかさを感じます。無駄がない、と言う感じです。館内案内も文字の羅列ではなくイラストで、直感的に分かりやすいです。
御料理も、季節感の演出がとても印象深いです。中でも鰆の焼き物は絶品でしたが、新鮮さを物語る茗荷の断面、香り高い蕗の薹の前菜、椀物の風味、そして飾り物でもありますが、と勧められた大根の、頬張った途端に溢れる瑞々しさ。美味しいものを少しずつ、という質・量ともに理想的なものでした。お肉やお米は言わずもがな。もしかすると、温泉リゾートに仰々しい接客や珍味を所望される方には物足りないのかも知れませんが、これこそは贅の極み、むしろ何処にでもあるものではありません。温泉も、例え話で聞いたことはありますが「とろとろの湯」とは言い得て妙。化粧水のような泉質でした。訪れなければ決して得られない体験です。
強いて言えば、一通り及第点だと普段気づかない点に気づいてしまう、というのが難でしょうか。夕食時、お一人の方々が一様にこちらを向く配置だったので、目隠しの衝立があっても良かったかな、とは思いました。尤も、部屋食とすれば気にするべき内容ではありません。あまりニーズは無いのかも知れませんが、有線放送の使い方やWi－Fiパスワードが解り易ければ、と思いました。接遇は、お若いスタッフほど熱心なのが心強いです。珈琲一杯を提供するのに、こういう素敵な一言が添えられるんだなぁと感心。これもまた、良い思い出です。

評価

• 総合5
• サービス4
• 立地5
• 部屋5
• 設備・アメニティ4
• 風呂5
• 食事5

旅行の目的

レジャー

同伴者

家族

宿泊年月

2024年03月