この度は当館をご利用頂きありがとうございます。また、お部屋、お食事、接客などお褒め頂きありがとうございます。
ちゃん0619様はコロナ禍での休館明けの、当館がお受けした初めのグループのお客様でした。しかし乍ら、投稿へのお返事が遅くなって申し訳ありません。
お食事は厳選会席となっていましたが如何でしたか？
小津安二郎に『秋刀魚の味』という作品がありますが、その中で主人公の平山を演ずる笠智衆やその友人らが、彼らの旧制中学の漢文教師、東野英治郎演ずる佐久間にハモをご馳走する場面があります。
佐久間はこんな美味しい、結構なものを食べたことはないと言うのですが、それがハモだと聞かされると、「魚偏に豊で鱧」と漢文教師らしく漢字だけは知っているのですね（但し、中国で鱧の字は違う魚を指します。鮪の字が本来チョウザメを意味したのと同じ）。
谷崎潤一郎の作品にも多々取り上げられたこの関西の方には馴染みの深い食材も、関東で食通に食されだしたのは、この映画の上映された凡そ昭和３０年代からとのことです。
私はハモは葛鱧（牡丹鱧）も、天麩羅も、鱧鮨も好きなのですが、季節の玉葱と合せて食べる「鱧すき」、これは元来は漁師が好んで食べるシンプルな料理と私は理解していますが、流石に彼らはハモの一番美味しい食べ方を知っているのですね。
当館の料理の達人は、それらを全て知り尽くした上で、シンプルな料理のその精髄は残しながら、しかし様々な技法を加えて優雅に仕上げております。これがお召し上がりになった厳選会席の一品でした。
優雅とは、ひとつの理解として、困難な技術が恰も楽々と達成されているように振舞うことですが、一見シンプルに見える一品に施された数々の技術や工夫は、お召し上がりになった際その奥行として感じて頂けたと、お褒めのお言葉から感じております。つまり、このように優雅の表現のひとつが、シンプルなのですね。
一方、コロナ明けの対応で、お知らせや接客などもの足りないこと多々あったかと思いますが、ご寛恕下さい。
また、最後ですが一番申し上げたいのは、遠くからではありますが、お二人様のご健勝を強く祈念しています。
ありがとうございました。