厳島神社参道の華やいだ喧騒から一歩宿に入ると上質な大人の空間に包まれる。黒服の女性スタッフの笑顔に迎えられ、ゆったりとしたソファーでチェックイン。ゲストの手間を省かせるためだろう、あらかじめ印刷された書面にサインをするだけ。その心配りに、『ああ、いい宿に来たな…』と心が和む。
　客室は広々としていて清潔極まりない。アメニティは一人分ずつていねいにラッピングされ、持ち帰っても構わない足袋までついている。部屋付きのエスプレッソマシーンのかぐわしいコーヒーで一息入れた後、大鳥居へ向かう。抜群のロケーションでわずか数分、フェリー乗り場からも目と鼻の距離なので、多少荷物が多くても苦にならない。
　夕食も朝食も海の見えるレストランで供される。とくに夜は、キャンドルの明かりの中、
ライトアップされた大鳥居も遠望でき、幻想的な気分。料理はセンス、品数、ボリュームとも非の打ちどころがなく、顧客満足第一という宿の精神がにじみ出ている。瀬戸内の新鮮な魚介類と有機野菜が極上の昆布と鰹の出汁で調理され、素材の味が引き出されている。わざわざ二人分ずつ小型の窯で炊き上げられたご飯はアツアツで、まるで茶懐石のよう…。同客はフランス人のカップルとアメリカ人らしい家族連れ、そして日本人一家族のみ。ネイティブのように流暢なサービススタッフの英語もあいまって、地中海のリゾートホテルを彷彿とさせる。
飲み物の豊富なこともこちらの特色で、食前酒代わりに広島の地酒を楽しんだ後はルロワのブルゴーニュ・ルージュをオーダー。マダム、ベーズ、ルロワはかつてのロマネ・コンティのオーナーの一人で、ワインファン垂涎のドメーヌ・ド・ルロワの総帥。テイスティングの天才、農作業はシャネルでなどと枚挙にいとまがなく、そのワインとこちらの料理の相乗効果にしばし陶然…。朝食もちょっとした旅館の夕食のようで、炊き合わせの蓋を取った瞬間にパッと湯気が立つ。大変な手間をかけていただいていることに思わず頭が下がる。
　海を望む露天風呂につかり、白濁したマイクロバブルの湯でリラックス、深い眠りにつく。帰り際、角を曲がるまで深々と頭を下げる二人のスタッフに答礼し、つくづく『この宿を選んでよかった』と思う。整った設備はもちろんのこと、けっきょくは人と人なのだ。またおうかがいさせていただきます。ありがとうございます。

評価

• 総合5
• サービス5
• 立地5
• 部屋5
• 設備・アメニティ5
• 風呂5
• 食事5

旅行の目的

レジャー

同伴者

家族

宿泊年月

2017年08月